社長が会う相手は、お客様ではなく「会社の未来」です
私は東京エレクトロンで約20年間、半導体製造装置の事業に携わり、14カ国・50件以上のプロジェクトを経験してきました。世界中の半導体メーカーを訪問し、経営層や工場長、プロジェクト責任者と直接話をする機会にも数多く恵まれました。
その経験の中で、私が強く感じたことがあります。
それは、社長や経営者が訪問する目的は、「営業」ではないということです。
多くの方は、「社長が顧客を訪問するのは、大口案件をお願いするためでしょう」と考えます。もちろん、そのような側面もあります。しかし、本当の価値はそこではありません。
社長が訪問する最大の目的は、「未来を見に行くこと」です。
営業担当者が聞ける話と、社長だから聞ける話はまったく違います。
社長が訪問すると、相手企業も経営層や意思決定者が応対することが多くなります。すると、目先の発注や価格の話だけでは終わりません。
「来年から海外工場を増やす予定です。」
「新しい市場へ進出を考えています。」
「今後は品質よりも納期を重視する方針です。」
「AIの導入で業務の進め方が変わりそうです。」
こうした何気ない会話の中に、会社の未来を左右する情報が数多く含まれています。私は、こうした雑談こそが経営にとって最も価値のある情報だと考えています。
市場は、お客様の変化から始まります。
その変化を最初に知ることができるのが、社長の訪問なのです。
現場を離れた社長から、判断力は少しずつ失われます
多くの中小企業の経営改善をご支援していく中で気付いた共通点があります。
「業績が伸び続ける会社の社長ほど、お客様のところへ足を運び続けている」です。
反対に、業績が停滞している会社ほど、社長が現場へ行かなくなります。
「営業がいるから大丈夫。」
「報告を受けているから分かっています。」
そうおっしゃる社長も少なくありません。
しかし、報告書には数字は書かれていますが、空気までは書かれていません。
お客様が話すときの表情。
言葉にしなかった不満。
競合他社への評価。
担当者が何気なく漏らした一言。
これらは、実際に現場へ行かなければ感じ取ることができません。
私は支援先で、社長に「月に一度だけでもお客様を訪問してください」とお願いすることがあります。
すると、不思議なことが起こります。
「こんなサービスを期待されていたとは思わなかった。」
「競合がこんな提案をしているとは知らなかった。」
「担当者ではなく、役員は全く違うことを考えていた。」
社長ご自身が、このような気付きを持ち帰られるのです。
そして、その一つの気付きが、新商品の開発につながり、営業戦略を変え、利益率を改善し、会社全体の方向性まで変えていきます。
経営とは、会議室で考えるものではありません。
市場の変化を肌で感じ、その変化を会社の仕組みに変えていくことです。だから私は、社長が現場を離れた瞬間から、会社の未来を見る力は少しずつ弱くなっていくと考えています。
社長の一回の訪問は、営業百回分の価値があります。それは契約を取るからではありません。
会社の未来を決める情報を持ち帰ることができるからです。
雑談の中に、経営の答えがあります
社長が顧客を訪問する価値は、情報収集だけではありません。本当の価値は、「お客様が本音を話してくださる環境」が生まれることです。営業担当者には言わないことでも、社長同士であれば自然と話題になることがあります。
「実は、今こんなことに困っているんですよ。」
「来年は事業の方向性を変えようと思っています。」
「最近、〇〇社さんが頻繁に来られますね。」
こうした一言は、単なる雑談ではありません。
経営者同士だからこそ共有される、未来へのヒントなのです。
私が東京エレクトロンで仕事をしていた頃も、商談より雑談のほうが価値のある時間だと感じることが何度もありました。工場を案内していただきながら話をする中で、お客様が今後どの分野へ投資しようとしているのか、どんな課題を抱えているのか、競合他社をどう評価しているのかが自然と見えてきました。その情報があったからこそ、一歩先を見据えた提案ができ、お客様から信頼をいただくことができました。
私は今でも、「経営者の雑談は未来への会議」だと考えています。
だからこそ、社長は現場へ足を運び続ける必要があるのです。
GHOST経営™は「社長が動かない経営」ではありません
私がGHOST経営™をお伝えすると、
「社長が現場へ行かなくても会社が回る仕組みですね。」
と言われることがあります。
半分は正解ですが、半分は違います。
GHOST経営™は、社長が何もしない経営ではありません。社長にしかできない仕事へ集中するための経営です。
営業活動は社員へ任せることができます。
日々の業務も仕組み化できます。
教育も標準化できます。
しかし、お客様の未来を感じ取り、会社の未来を決める仕事だけは、社長にしかできません。だから私は、「社長は営業をしてください」とは言いません。
「社長は未来を見に行ってください」とお伝えしています。
市場は毎日変化しています。お客様の価値観も変わります。競合も変わります。技術も変わります。その変化を最初に感じ取り、会社の進む方向を決めることが、経営者の本来の役割なのです。そして、その情報を組織へ共有し、営業の仕組み、商品開発、サービス品質、人材育成へ落とし込んでいく。
それがGHOST経営™のいう「構造化」です。
社長が見つけた未来を、組織全体で再現できる会社こそ、本当に強い会社なのです。
社長が未来を持ち帰り、組織が価値を届ける
会社は、社長一人で成長するものではありません。しかし、会社の未来は社長の視点によって決まります。社長が市場を見れば、会社は市場を向きます。社長が数字だけを見れば、会社も数字だけを見るようになります。社員は社長の言葉以上に、社長の行動を見ています。
だからこそ、社長がお客様のもとへ足を運ぶ姿勢そのものが、会社の文化になります。
「お客様の声を大切にする会社」
「現場を大切にする会社」
「変化を歓迎する会社」
こうした文化は、経営理念を掲げるだけでは生まれません。
社長の行動が、組織の基準になるのです。
経営の本質
社長が顧客を訪問する目的は、契約を取ることではありません。
未来を感じることです。
営業百回では得られない情報を、一回の訪問で得られることがあります。それは、お客様の本音であり、市場の変化であり、競争環境であり、会社が次に進むべき方向です。
私は半導体業界で世界中のお客様と向き合い、コンサルタントとして多くの企業の現場を見てきました。その経験から確信していることがあります。
会社が成長し続けるかどうかは、社長がどれだけ未来を見ているかで決まります。
そして、その未来を仕組みに変え、組織全体で再現できる会社だけが、長く繁栄していきます。
社長は営業をしなくてもいい。
しかし、未来を見ることだけは、誰にも任せてはいけません。
それこそが、GHOST経営™が目指す「社長依存から構造依存へ」の本当の意味であり、私が考える経営の本質なのです。
