なぜ社長は“決定”を手放してはいけないのか
「社員にもっと任せないとダメですよ。」
経営者であれば、一度はこう言われたことがあると思います。コンサルタント、銀行、税理士、経営者仲間。最近ではSNSでも、「社長が現場を離れろ」「権限委譲しろ」「任せる経営をしろ」という言葉が溢れています。もちろん、これは間違いではありません。しかし、この言葉を中途半端に理解した会社ほど、実は危険な状態へ向かっていきます。なぜなら、多くの社長が、「任せる」という意味を根本的に間違えているからです。
ある建設会社の社長がいました。創業から十数年。社員も増え、売上も伸び、年商10億が見え始めていました。しかし、その頃から会社がおかしくなり始めたのです。利益率が下がる。クレームが増える。社員同士がバラバラになる。現場品質も安定しない。社長は言いました。「社員に任せているんですが、うまくいかないんです。」私はその会社の会議に参加させてもらいました。そして、すぐに違和感を覚えたのです。社員たちが、それぞれ違う方向を向いている。ある人は利益優先、ある人は品質重視、ある人はスピード重視。つまり、“会社としての判断基準”が存在していなかったのです。その瞬間、私は原因が分かりました。この会社は、「実施」を任せるのではなく、「決定」まで任せてしまっていたのです。
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「任せる」とは、一体どういうことなのか
ここで非常に重要な話があります。「任せる」という言葉は、実はかなり危険な言葉です。なぜなら、言葉だけが一人歩きしているからです。多くの社長は、「社員に自由にやらせること」を任せることだと思っています。しかし、本当にそうでしょうか。
例えば飛行機を想像してください。機長が、「今日はみんな自由に飛ばしていいよ」と言ったらどうなるでしょう。整備士が好きに判断する。副操縦士が好きに進路を変える。客室乗務員が勝手に運行時間を変える。そんな飛行機に、誰も乗りたくありません。会社も全く同じなのです。つまり、“方向性の決定”は、必ずトップが握らなければならない。これが経営の本質です。
事業というものは、やり方の上手下手で運命が決まるわけではありません。もっと上流にある、「何をやるのか」「どこへ向かうのか」という決定によって運命が決まるのです。例えば、真逆の方向へ全力疾走したらどうなるか。どれだけ頑張っても、目的地から遠ざかります。これは経営でも全く同じです。どの市場へ行くのか。誰をお客様にするのか。利益率を取るのか。シェアを取るのか。高品質で戦うのか。価格で戦うのか。この“決定”によって、会社の未来は決まるのです。
そして、その決定をする人間こそ社長です。社長が決定を誤れば、会社は潰れるか、潰れないまでも深刻なピンチに陥ります。逆に、決定が正しければ、会社は驚くほど強くなる。つまり、経営とは、「決定の連続」なのです。
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「決めない社長」が、会社を壊していく
最近、とても多いのが、“優しい社長”です。社員の意見を尊重する。みんなで決める。自由を与える。もちろん、それ自体は悪いことではありません。しかし、“決断責任”まで放棄してしまう社長が増えているのです。
実際に、ある設備会社のコンサルティングを請け負った時のことでした。社長は、「早く社長を辞めて、次の世代へバトンタッチしたい」と切望していました。私は、「では、やりましょう」と言ってプロジェクトをスタートしました。
まず、社員ヒアリングを始めたのです。すると、驚くほど同じ言葉が返ってきました。
「社長の言うことがコロコロ変わるんです。」
「先日こう言われたので進めていたら、“そんなこと言ってない”と言われるんです。」
しかも、全て口頭。記録がない。挙げ句の果てに、社員たちは、自分を守るためにメモを書き、そこへ社長の判子をもらうようになっていました。
しかし、それでも朝令暮改が止まらない。すると今度は、社員たちがICレコーダーやスマホで会話を録音し始めたのです。
ここまで来ると、もはや組織ではありません。社員が“防衛”しながら働いている状態です。
私は危機感を覚えました。そこで、役職者4名と社長を集め、今回の改革の目的と進め方を、社長自身の口から説明してもらいました。私はその横で補足説明を行い、方向性を揃えたのです。
しかし、それから一ヶ月もしないうちに、社内会議で社長が突然こう言い出しました。
「やっぱり社長を辞めない。」
社員は完全に困惑しました。不信感と不安は、一気に増大しました。さらに驚いたことに、事前に説明して合意していたコンサルティング契約内容までも、「そんな話は聞いていない」と言い始め、有る事無い事を言い始めたのです。
私は、その時に確信しました。
この会社が苦しい最大の原因は、“決められないこと”ではない。“決めたことを守れないこと”なのだと。
結局、そのコンサルティングは3ヶ月で打ち切りました。はっきり言いますが、こういう社長は、今回の話とは真逆です。さっさと社長を辞め、世代交代をした方が会社のためです。
なぜなら、社長の最大の仕事は、“決めること”ではなく、“決めたことに責任を持つこと”だからです。
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社長の仕事は、「決断」そのものである
ここで改めて考えてほしいのです。社長の仕事とは、一体何でしょうか。営業でしょうか。現場でしょうか。管理でしょうか。もちろん、それらもあります。しかし、本質は違います。
社長の仕事とは、“決断”です。
市場を決める。未来を決める。思想を決める。文化を決める。つまり、社長とは、「会社の方向を決める存在」なのです。だから社長が迷えば、会社も迷う。社長がブレれば、会社もブレる。逆に、社長が明確なら、会社は強くなる。社員は、“社長の決断”を見ているのです。
特に、これからの時代は、変化が激しい。AI、人口減少、原価高騰、競争激化、価値観の変化。つまり、何もしなくても環境が変わっていく時代です。だからこそ、“決める力”がますます重要になっています。
社長が「どちらへ向かうか」を決めなければ、会社は流されるだけになります。そして、流される会社は、最後には価格競争に巻き込まれ、利益が残らなくなるのです。
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任せるのは、「実施」である
では、社員には何を任せるのか。それが、“実施”です。つまり、「どう実行するか」を任せるのです。
例えば、「高品質で戦う」という決定は社長がする。しかし、その品質をどう実現するかは、現場が工夫する。これが正しい役割分担です。
つまり、決定はトップ。実施は現場。この分離が極めて重要なのです。
逆に、現場が勝手に方向を決め始めると、会社は崩れます。営業が勝手に安売りする。現場が勝手に仕様変更する。管理部門が勝手にルールを増やす。すると、会社全体の思想が崩れていく。つまり、“統一感”が消えるのです。
例えば、トヨタが強い理由もここにあります。現場改善で有名ですが、実は“思想”は徹底的に中央集権です。品質思想、安全思想、改善思想。つまり、「何を大切にするか」は、明確に決められている。しかし、その実現方法は現場に任せる。だから強いのです。
もし、「品質を重視するかどうか」まで現場任せにしたらどうなるか。工場ごとにバラバラになる。つまり、ブランドが崩壊する。だから、“思想と決定”はトップが握る。これが超一流企業の共通点なのです。
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GHOST経営™が考える「任せる経営」
GHOST経営™では、「任せる」を、“決定と実施を分離すること”だと考えています。つまり、理念、方向性、利益構造、市場戦略、文化。これは社長が決める。しかし、改善、工夫、実行、現場最適化は社員が担う。
すると何が起きるか。会社が強くなります。なぜなら、“統一思想”と“現場実行力”が両立するからです。
つまり、社長が決定を握り、社員が実施を磨く。これが、最も強い組織構造なのです。
多くの会社は、ここが逆転しています。社長が現場作業に追われ、社員が勝手に方向を決めている。これでは会社は安定しません。だからこそ社長は、“何を決めるべきか”を明確にしなければならないのです。
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「決定」から逃げてはいけない
社長という仕事は、孤独です。なぜなら、決断責任があるからです。嫌われることもある。苦しい決断もある。しかし、そこから逃げた瞬間、会社は弱くなる。
だから社長は、決めなければならない。どこへ向かうのか。何を守るのか。誰を幸せにするのか。そして、何を捨てるのか。
社員に任せるのは、“実施”です。しかし、“決定”だけは、社長が握り続けなければならない。
それが、会社の未来を守るということなのです。
